書き溜めておいた原稿の中から、
なつかしいセッション風景が出てきた。
ずいぶん以前のものだが、
・・・今回はそれを整理して書く。
■「ウゥッ!ウゥッ!」というような声をよく出しているので、
ちょっと怖い(?)感じに見えるAさん。
重度の自閉症の男の方で、言葉でのやりとりはないが、
“言葉がない”ではなく“声を出せる”と捉えれば、
やれることが出てくる。
■ Aさんは、居住している施設から、
職員さんに車で送られて、
MGW研究所に通って来ていた。
いつも、いったんはセッションルームに入るものの、
すぐに駐車場に行き、送られてきた車の中に入り込んでしまう。
この人の決めたルールである。
(通常は、こだわりと呼ばれている)
私はその状況に応じ、車の外から働き掛けることにした。
屋外である(雨の日も雪の日もあり、大変だった。)。
そのシチュエーションでは、
もちろんピアノなどは使えない。
ハンドドラム・タンバリン・リコーダー・鍵盤ハーモニカなど、
ハンディな道具で対応する。
それにもう一つ・・・「声」。
声は、どこでもいつでも使え、ポータブルである。
私もAさんも持っている。
■ ・・・いつものように、
2Fのセッションルームで、
ハンドドラムをチョンと叩くと、
車の中に入り込んでしまった。
私も共に移動し、いつものように車外からの働きかけとする。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
??・・・Aさんの方から何か声を出してくる。
何と <あいさつポン(オリジナル曲)> だ!
「アッ、アッ、アツ」といった歌い方(発声)ではあるが、
そう聞こえる。
私は、急いでそれに合わせて歌いかける。
共に歌ったような感じになった。
その後、何か怒鳴るような声がしてきた。
よく聞くとメロディが感じ取られる。
<大きな古時計>(のような感じ)である。
毎回のセッションで、鍵盤ハーモニカで聞かせてあげている曲だ。
鍵盤ハーモニカでそれを演奏する。
Aさんは、はっきりと歌っている(と感じた)。
何回も、Aさんの方から先に声を出してくる。
Aさんからの“やりとり”だ。
そのたびに鍵盤ハーモニカで“伴奏”をする。
他の曲にしてみると、それも歌ってくれる。
いくつかの歌を知っているのだ。
しかし、それが引き出されるのは状況によるものであろう。
私の働きかけの中でそれが出てきたことを、嬉しく感じた。
「やった!」と思った。
鍵盤ハーモニカを止めて、私も歌いかけにしてみる。
すると、それがモデルになったのか、
今度はよりはっきりした形で歌っている。
■ 鍵盤ハーモニカも歌いかけも、
ただ曲をなぞるのではない。
刻々と変わるAさんの声・状態に、
エコー・ダイアログ・モデリング・同質技法etc.を、
フル動員して即応してゆく真剣勝負だ。
セッションでの伴奏は、
Cl.の表出を、寄り添い、支え、リードして、
表現へと変えてゆくものである。